さまざまな業界で活用が進められている3Dプリンタの中で、熱溶解方式と並んで代表的な造形方式のひとつが光造形方式です。幅広い材料に対応しているため、用途に合わせて適切な材料を選択することで、さまざまな造形物の加工が可能です。
この記事では、3Dプリンタの代表的な造形方式のひとつである光造形法の特徴に加え、光造形で使われる樹脂の種類や特徴について紹介します。
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光造形方式の特徴
光造形方式は、3Dプリンタの中でも歴史が長い造形方式です。光造形方式の3Dプリンタに用いられている「光造形法」を生み出したのは、日本人であることも広く知られています。
液状の光硬化性樹脂に紫外線ライトやレーザーを照射することで、目的とする形状を造形します。光の出力の仕方によっていくつかに分類されており、代表的なのはSLA方式とDLP方式です。
SLA方式
SLA(Stereo Lithography Apparatus)方式では、レーザーを一筆書きで材料に照射し、少しずつ樹脂を硬化・積層させていきます。材料の位置を調整しながら少しずつ造形するため大型の造形が可能な点。また、表面が比較的滑らかな点がSLA方式の特徴です。
一方で、多くの材料が必要となる点や造形に時間がかかることがデメリットです。
DLP方式
DLP(Digital Light Processing)方式では、プロジェクターによって一度に造形面に照射します。造形速度が速いことや材料の消費量を抑えられる点がメリットです。
一方で、吊り下げながら加工するため大型の造形は難しく、縦・横方向に比べて高さ方向の造形精度が高くない点がデメリットです。
いずれの方式でもなめらかな表面の造形物を実現できます。一方で、光硬化性樹脂を用いる造形物の特徴として、太陽光や紫外線などに弱いというデメリットがあります。
透明な樹脂で部品を製造しても、紫外線などによって経年劣化し濁ってしまうため、使用環境や保管場所には注意が必要です。
光造形方式で用いられる樹脂材料
光硬化性樹脂のメリットのひとつに、さまざまな材料が使用できる点があげられます。ここでは、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、その他の樹脂に分けて紹介します。
用途の拡大に向けて日々新しい材料の開発が進められているため、最新の材料について情報を取得できる環境を構築しておくといいでしょう。
アクリル樹脂
アクリル樹脂は液体樹脂の一種で、透明度が高く着色が容易な材料です。色鮮やかな造形物の実現が可能なことから、デザイン性の確認を目的とした試作品やフィギュアなどの造形に用いられます。
また、短時間で硬化するため造形時間が短く、材料の価格も比較的安価です。そこで、照明器具やレンズの試作品などにも用いられています。
一方で、光硬化性樹脂全般の特徴として長時間の紫外線により変色や劣化が進むこと。また、加工前のアクリル樹脂は取扱いに注意が必要であり、換気できる環境での作業が必要不可欠です。
エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は、アクリル樹脂と同様に液体樹脂の一種です。3Dプリンタに用いられるエポキシ樹脂は、ABSライク樹脂やPPライク樹脂などに分類されます。これらは、ABSやPPの特徴を模倣しつつ光造形に適用できるような材料です。
例えば、ABSライク樹脂はABS樹脂同様に耐衝撃性や耐熱性が優れています。一方で、ABS樹脂よりも強度が劣るため、ABSとまったく同じように使えない点には注意が必要です。
また、PPライク樹脂はPPの特徴である耐衝撃性や耐熱性を再現した材料です。このように、本来は光造形に適用できない材料の代替品として開発された樹脂が多くあります。
エポキシ樹脂の多くは、皮膚に触れると刺激を与える可能性があるため、使用時は手袋を装着するなどの注意が必要です。
その他の樹脂材料
アクリル樹脂やエポキシ樹脂以外には、PU(ポリウレタン)やシリコン樹脂も光造形方式の材料として用いられます。
PU(ポリウレタン)
PUは、ゴムのような柔軟性や弾力性がある材料です。硬度の調整が可能なため、加工したい造形物の特徴に合わせて材料の調整を行います。また、耐衝撃性や耐摩耗性、耐油性、耐薬品性の高さが特徴です。これらの特徴を生かして、靴底やグリップなどの柔軟性や耐摩耗性が求められる用途に用いられています。
一方で、ゴム同様にとがったものの接触や裂くような外力には弱いため、使用時には注意が必要です。
シリコン樹脂
シリコン樹脂は、柔軟性や伸縮性に優れ、変形にも強い液体樹脂の一種です。耐熱性や耐寒性に優れていることから、幅広い環境下で使用できる材料です。シリコン樹脂は、生体適合性が優れています。そこで、医療用途である医療用モデルや義肢などの人体と直接接触することの多い製品への適用が可能です。
デメリットとしては、他の素材との接着が難しいことから、用途が限定される点があげられます。
光造形方式で造形する際の注意点
光造形方式は紫外線やレーザーを照射して加工するため、積層痕が目立ちにくく精度の高い造形に向いています。しかし、以下のような条件では積層痕が目立ってしまうことがあります。
- 造形中に造形箇所によって照射時間が異なる
- 材料の土台であるリフトの移動速度が造形途中に変わる
- リフトが不安定で微小揺れなどが生じる
- 造形中に一時的に造形が意図せず中断する
- 材料の収縮の影響が出るようなデザイン
- 材料が撹拌されておらず不均質な状態での造形
- 色素や顔料が樹脂に溶け込まず分離している
- 過度な照射やリフトの移動速度が速い
これらの課題を解消するためには、適切な造形環境を構築し材料の撹拌を十分に行っておくことが重要です。また、造形時のリフト移動速度や材料への照射時間などのパラメータは、適切な値を見つけておく必要があります。
一方で、最近は積層ピッチが5μmといった高精度な3Dプリンタや、高品位なモールド印刷に適した「可溶性犠牲樹脂」も登場しています。
特に従来材料が使えない造形の場合、可溶性犠牲樹脂によるモールドを介した3D造形が有効です。
通常の光造形方式と比べて積層痕がほとんど残らない造形も可能になっているため、有効な選択肢となるでしょう。
BMFの可溶性犠牲樹脂とアプリケーション
BMFではPµSL(Projection Micro-Stereolithography)と呼ばれる、独自の光造形技術を開発。ミクロンオーダーの造形精度で、高い精度が求められる産業用途のニーズに応えています。
BMFでは、新たにPDMSデバイスなどのモールド印刷に適した「可溶性犠牲樹脂」を開発しました。可溶性犠牲樹脂は、硬化後に熱アルカリで溶解することができ、切削加工や射出成形が苦手とする複雑な形状の造形について、さらに精密で高速な造形を可能にします。樹脂鋳造や射出成形によって、PDMS、POM、エポキシ樹脂、ABSなどの通常のポリマーで最終部品を作ることも可能です。
可溶性犠牲樹脂で印刷したマスターモールドでPDMSを成形し、その後マスターモールドを熱アルカリで溶解することで、精密で複雑な三次元微細構造を持つPDMSデバイスを簡単に製作することができます。可溶性犠牲樹脂は、射出成形用のモールド印刷などにもその用途が広がっています。
光造形で使われる樹脂の種類まとめ
今回は、3Dプリンタの中でも代表的な造形法のひとつである光造形の概要と、光造形で用いられる材料について紹介しました。幅広い特性の材料を使用できる光造形は、用途に合わせた造形が可能です。
特定の条件で生じる可能性がある積層痕については、近年開発されている高精度な3Dプリンタを活用することで解消できます。これまで、精度が不足して適用できなかった材料などについても、最新の3Dプリンタであれば実現できるかもしれません。