【目次】
1. テスラバルブとは
2. テスラバルブの特徴
3. テスラバルブの用途
4. 複雑なテスラバルブの一体成形が可能に
5. BMFの高精度3Dプリンタによるテスラバルブ構造の造形例
6. テスラバルブとは?まとめ
テスラバルブは、可動部を使わず、流れる方向によって流体抵抗が変わるように設計された流路です。一般的な逆止弁のように弁体で流路を閉じるのではなく、内部の分岐と合流によって逆方向の流れに大きな抵抗を与えます。
ただし、あらゆる条件で逆流を完全に止められるわけではありません。性能は流速、流体の性質、流路寸法、形状、脈動条件などによって変わります。
この記事では、テスラバルブの仕組み、一般的な逆止弁との違い、用途、採用時の注意点に加え、複雑な微細流路を高精度3Dプリントで一体造形した事例を紹介します。
テスラバルブとは

この画像は、クリエイティブ・コモンズ(CC BY 4.0)とパブリックドメインのもと使用されています
テスラバルブは、ニコラ・テスラが考案し、1920年に米国特許として公開された「Valvular Conduit(弁作用を持つ流路)」です。
可動部を持たず、流れる方向によって流体抵抗が異なることから、流体ダイオードとも呼ばれます。順方向では流体が比較的流れやすく、逆方向では内部の分岐と合流によって圧力損失が増えるように設計されています。
一般的な逆止弁のように流路を物理的に閉じる構造ではないため、逆流を完全に遮断する装置ではありません。流速、流体の性質、流路形状などの条件に応じて、逆方向の流れを抑制するために使用されます。
さまざまなバルブ
油圧を制御するバルブは、以下のように分類されます。
圧力制御弁 | リリーフ弁など、圧力を調整するバルブ |
流量制御弁 | 絞り弁や流量調整弁など、流量を調整するバルブ |
方向制御弁 | 切替弁や逆止弁など、油の流れる方向を制御するバルブ |
この中で、テスラバルブが分類される逆止弁には、以下のような種類があります。テスラバルブは一般的に用いられていないため、以下で紹介する逆止弁を用途に応じて使い分けています。
スイング式 | 蝶番がついた弁体を使用し流体の流れによって開閉する |
リフト式 | 流体の圧力によって、弁体を上下に移動させ開閉する |
ウェハ式 | ウェハ状の薄い形状で、バルブの開閉部がディスクやプレートで構成 |
ボール式 | ゴム製のボールが弁となり、流体の方向によって開閉する |
テスラバルブの特徴

テスラバルブは、以下のような特徴を持ちます。
流れの方向を制御できる
テスラバルブの内部には、分岐と合流を組み合わせた非対称な流路が連続して配置されています。
順方向では、流体の多くが主流路を通過するため、比較的小さな抵抗で流れます。一方、逆方向では流体の一部が分岐流路へ導かれ、迂回した流れが主流と再び合流します。このとき生じる流れの干渉、渦、圧力損失によって、逆方向の流体抵抗が増加します。
ただし、抵抗差の大きさは流速、Reynolds数、流体の性質、流路寸法、形状などによって変化します。特に流速が低い条件では、順方向と逆方向の抵抗差が小さくなる場合があります。
耐久性が高い
テスラバルブは、上記で紹介した他の逆止弁とは異なり、流れを止める際に稼働する機構を持ちません。バルブの故障は可動部で生じることが多いため、テスラバルブの場合には可動部がないことで耐久性が高く、メンテナンスフリーを実現できる可能性がある装置として注目されています。
一方で、逆方向に流れる際に乱流が生じる部分では、他の部分よりも大きな負荷が生じる可能性があるため、本体へのダメージに注意が必要です。
形状が複雑で加工が難しい
テスラバルブを採用する際のもっとも大きなデメリットは、形状が複雑で加工が難しい点ではないでしょうか?水滴状のループを鎖状に連ねるような構造は、複雑であり一体加工も組立ても難しいです。また、他の逆止弁と比べて鎖状に連ねる分、流体を流す方向に長さが必要です。
スペースに余裕がない場合には全体を小さくする必要があるため、より一層難しい加工を行わなければなりません。
完全な逆流遮断には適していない
テスラバルブは、機械式逆止弁のように弁体で流路を閉鎖する構造ではありません。そのため、逆流を完全に遮断する必要がある用途には適さない場合があります。
特に低流速や低Reynolds数の条件では、順方向と逆方向の流体抵抗の差が小さくなり、十分な逆流抑制効果が得られない可能性があります。
採用時には、必要な流量、許容できる圧力損失、逆流量、流体の粘度、使用温度などを整理し、解析や試作によって性能を確認する必要があります。
テスラバルブの用途

テスラバルブは、マイクロ流体デバイス、バルブレスポンプ、流体の整流・混合、脈動流の制御、熱管理などの分野で研究されています。
特に、可動部を設置しにくい小型デバイスや、複雑な流路を一体化したい用途では、有力な選択肢になる可能性があります。
一方、一般的な逆止弁をそのまま置き換えられるとは限りません。完全な遮断が必要な場合は機械式逆止弁が適しており、テスラバルブは可動部をなくしたい場合や、一定条件下で流れの方向性を持たせたい場合に検討します。
複雑なテスラバルブの一体成形が可能に
テスラバルブの用途開発と並行して、複雑なテスラバルブの製造・加工に関する技術開発も進められています。近年、3Dプリンタの技術開発が進められることで、テスラバルブのような複雑な形状でも高精度での一体造形が実現できるようになっています。
特に、マイクロ流体の研究で用いられるテスラバルブは複雑な形状を微小サイズで実現する必要があり、製造精度の影響を大きく受けてしまうため高い精度での加工が必要不可欠です。
3Dプリンタを用いた一体造形では、さまざまな材料を用いて高精度な造形が可能であるため、マイクロ流体の研究にも活用できる高精度のテスラバルブを造形できます。製造に関する課題を解決することでテスラバルブの活用機会が広がり、新たな技術開発や適用対象の拡大が期待できるでしょう。
BMFの高精度3Dプリンタによるテスラバルブ構造の造形例

BMFでは、3Dプリンタの実用化が進むなか、PµSL(Projection Micro-Stereolithography)と呼ばれる、独自の光造形技術を開発。PµSL技術は、高い精度が求められるテスラバルブの造形ニーズに応えています。
BMFの超高解像度3Dプリンタによる、テスラバルブ構造の造形例をご紹介します。
緑内障ドレナージ装置

BMFでは、北京同仁病院(中国)と提携し、経角膜経路一方向性房水ドレナージ装置を共同開発しました。この装置は、超高解像度3Dプリンタで造形され、内部に微細なテスラバルブ構造を採用しています。
最小流路の直径は30μmまで実現され、房水の逆流を防止するテスラバルブ構造を備えています。さらに、方向性ドレナージ、逆流防止、術後低眼圧防止などの機能を実現可能です。
また、最適化された全体的な構造設計により、従来30~40分かかる手術時間を3~5分に短縮することが可能です。12名の失明患者を対象としたトライアルでは、良好な結果が得られ、明らかな合併症が見られませんでした。
この装置は、手術期の眼圧制御が優れており、緑内障の治療において成果を上げています。
画像引用:BMFの3Dプリンターによって製造された新型緑内障ドレナージ装置(サイズ:3.3*1.7*0.25mm)と緑内障患者の眼球に留置した様子
テスラバルブとは?まとめ
今回は、テスラバルブの特徴や3Dプリンタによる造形例を紹介しました。テスラバルブは複雑な形状であり、逆止弁としてもメカ的に経路が遮断されるわけではないため、用途が限定されています。一方で、耐久性など大きなメリットもあるため、活用範囲の拡大が期待されます。
高精度な3Dプリンタによってテスラバルブの製造に関する課題が解消されれば、さらなる用途拡大が期待できるでしょう。