医療分野における3Dプリンター技術|メリットや選び方、活用事例

立体モデルの造形が可能な3Dプリンターは、かつて製造業の試作やモデリング目的でおもに活用されていましたが、近年さまざまな種類の3Dプリンターが誕生し製造業以外の分野でも活用されるようになりました。
3Dプリンターの選択肢が広がったことで、医療分野でも3Dプリンターのさまざまな技術が応用されています。
今回の記事では、これから医療分野での3Dプリンター導入を検討している方のために、3Dプリンターの医療分野で応用される技術、医療分野で3Dプリンターを導入するメリットや導入時の選び方について解説します。3Dプリンターの医療分野での導入事例やおすすめの3Dプリンターについても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

BMF Japan株式会社では、医療分野をはじめ、マイクロ流体、マイクロメカニクス、MEMS、科学研究など様々な分野で、精度や予算等、重視したいポイントに合わせた製品のご提案を行っております。また、BMFの産業用3DプリンターmicroArchシリーズなら従来の切削加工や金型では難しい複雑で微細な試作を実現できます。

世界中のお客様のニーズに合わせて、最適な3Dプリンティングソリューションをご提案します。ぜひお気軽にご相談ください。

  1. 医療分野で応用される3Dプリンタ―の技術
  2. 医療分野に3Dプリンタ―を活用する活用するメリット
  3. 医療分野で3Dプリンタ―を導入する際の選び方のポイント
  4. 3Dプリンタ―の医療への導入事例
  5. まとめ

医療分野で応用される3Dプリンターの技術

医療分野では、患者さんの体内に入れ込む医療パーツはもちろん、医療機器やそのパーツの製造には複雑かつ高い造形技術が必要になります。近年では、3Dプリンターの技術レベルそのものが向上したことを受けて、医療分野へと応用可能な3Dプリンターも増加しました。
ここでは医療分野で応用されている、3Dプリンターの技術を解説します。

手術シミュレーション支援

3Dプリンターによる手術の支援においては、CTやMRIによって撮影された画像データをもとに、3Dプリンターで造形された実際の骨格や臓器により近い精巧なモデル(模型)が活躍しています。

3Dプリンターで造形された骨格や臓器モデルを活用すれば、人体内にある実際の骨格や臓器により近いモデルによって手術シミュレーションができるようになります。

3Dプリンターの手術シミュレーションへの応用は、現在は骨格モデルが中心です。臓器モデルはより複雑な造形や着色が求められるため、より機能の高い3Dプリンター技術が必要となります。機能性の高い3Dプリンターは、コストも高くなります。

ただし将来的に3Dプリンターによる手術支援が保険適用となれば、手術シミュレーションへの3Dプリンターの活用がより拡大すると期待できるでしょう。

医療機器・機具・パーツの製造

医療現場で必要となる医療機器(器機)やパーツは、特定の疾病の流行や市場のニーズなどに伴って、需要が一時的かつ急に高まることがあります。医療機器やパーツの製造が追いつかず、需要と供給のバランスが崩れてしまう場合も、3Dプリンターによる造形技術が有効となることがあります。

たとえば2020年から続いた新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックにより、感染防止対策に必要な医療機器、医療器具、防護用品などが短期的に需要過多となり、壊滅的な供給不足となりました。新型コロナウィルスの治療に必要な人工呼吸器の部品のほか、感染防護衣やフェイスシールド、マスクなども大幅に不足となったのは記憶に新しいのではないでしょうか。

その際、トヨタ自動車が国内の自社工場に設置済みの3Dプリンターを活用し、顔全体を覆う防護マスクの生産に着手、週に500から600個のペースで生産したという事例があります。さらにグループ会社のデンソーやトヨタ紡織では、当時市場で品薄となったマスクを3Dプリンターで製造し、業務で必要な分を自給自足しました。製造業であるトヨタ自動車は試作をはじめ3Dプリンターを日常的に活用していたため、市販用ではないものの異分野である医療分野の製品造形にもつなげられた事例と言えるでしょう。

現在は製造業以外の分野でも取り入れられる、ハイエンドモデル以外の3Dプリンターも多くリリースされるようになりました。そのため、造形やモデリングといった知見のない医療分野の現場でも、簡単にパーツや機器の造形ができる3Dプリンターが活用されています。

バイオプリンティング

バイオプリンティングとは、3Dプリンターの材料として生きた細胞を使用し、モデリングをする技術のことです。バイオプリンティングを活用すれば、理論上は皮膚移植や臓器移植、再建手術に活用できる組織を生成できます。特定の臓器の組織を3Dプリンターで造形することで、病気の治療に役立つほか、移植し機能する人間の臓器を作り出すことも可能です。

バイオプリンティングは先進的な技術であり実証段階にはまだ至っていないものの、将来的にドナー待ちの解消による臓器移植や治療の拡大やコストの削減といったことも期待できます。

医療関連分野への技術の派生

3Dプリンターによる造形技術は、外科や整形外科における手術への活用のほか、歯科においては矯正や義歯、インプラントの分野にも広がりつつあります。ほかにも介護分野では介助に必要な補助具、義肢の製造にも3Dプリンターが導入されています

また、人間の医療分野だけでなく犬や猫などのペットを対象とした義肢の製造にも3Dプリンターを使用することもあります。

データと材料があれば複雑な造形が可能な3Dプリンターの技術は、今後も幅広い医療分野の用途へ応用されることが期待できるでしょう。

医療分野に3Dプリンターを活用するメリット

ここでは、医療分野で3Dプリンターを活用することで得られるメリットを解説します。

複雑な形状も造形できる

3Dプリンターはもともと造形するデータと材料があれば、さまざまな造形を柔軟に作り出すことが可能です。人間の臓器や骨、筋肉といった複雑かつ微細な形状も3Dプリンターで作り出せます。

もともと複雑な形状のパーツやモデルを作り出すときには、切削や研削といった機械加工が必須でした。

3Dプリンターなら機械加工に必要な機器や技術がなくても、複雑で微細な形状の造形も実現できます。

オーダーメイドに対応できる

3Dプリンターは、元々製造業における試作の造形に活用されており、量産よりも小ロットやオーダーメイド品の造形に向いています。

医療分野では、病状や患者さんの状態、体格、症状の必要な箇所によって、同じパーツでも異なる形状やサイズのものが必要となることがほとんどです。たとえば人工器官などの補綴物であるプロテーゼは、既製品では患者の固有の形態に適合せず、オーダーメイドのものが求められることも少なくありません。

3Dプリンターなら、患者さんに合わせたオーダーメイドの医療パーツを造形することが可能です。

必要に応じてすぐに造形ができる

医療パーツや医療機器を外注で制作する場合、必要なパーツのヒアリング、設計、開発、製造、梱包、配送といった一連の工程を踏みます。医療パーツや医療機器を入手する際には、一定の時間が必要となるため「緊急で心臓ステントのパーツが必要」といった需要には対応ができないこともあるでしょう。

医療機関に3Dプリンターがあれば、必要に応じてすぐに医療パーツや医療機器を造形できます。緊急の手術が入ったときや、医療パーツや機器の欠品を起こしていて手術や診察の対応ができないときなどにも、すぐにパーツを造形できるのも、メリットのひとつです。

導入しやすい

前述通り、従来医療分野で活用するパーツや機器を造形する場合、複雑な形状のものは専用の機器や造形技術が必要でした。外注する場合には、納期が長くかかってしまう可能性も高いです。

3Dプリンターは、その技術が進んだことから、従来の切削加工や金型では難しい複雑微細構造の造形を数時間で完成可能なものも誕生しました。特別な技術や知識を持たなくても、自社の医療機関に導入しやすい3Dプリンターも多くなっています。

医療分野で3Dプリンターを導入するときの選び方のポイント

手術シミュレーション用モデルの造形、必要な器具やパーツの製造など医療分野で3Dプリンターを導入する目的はさまざまです。これから医療分野で3Dプリンターの導入を検討する際に、覚えておきたい選び方のポイントを解説します。

精度や材料が目的に合っているかを確認する

3Dプリンターは機種によって精度はさまざまです。使用目的を十分に満たすだけの精度があるかどうかは重要なポイントです。よく確認しましょう。

BMF Japan 株式会社の3DプリンターmicroArch®シリーズの光学解像度は2μm・10μm加工公差は±10μm・25μmと、非常に精度の高い読み取りと加工性を持ち合わせています。産業用途で±10μm・25μmの公差で安定的に制御できる世界初の3Dプリンターで、実用的な造形サイズと速度を維持しながら、2~10µmという非常に解像度の高い部品の製造が可能です。

引用:https://www.bmf3d.co.jp/ 

また、3Dプリンターによる造形物を体内で使用する場合には、その材料は生体に無害であり、しかも生体からの影響を受けない材料である必要があります。

3Dプリンターで多く使用される樹脂の中でも、人体に使われる「生体適合性樹脂」は、ISO10993による以下の項目で安全性を評価しています。

細胞毒性 細胞に与える影響を評価
感作性 アレルギー反応のリスクを評価
刺激性または皮内反応 皮膚への刺激や炎症のリスクを評価
急性および亜急性全身毒性 全身に与える影響を評価
遺伝毒性 遺伝的リスクを評価
発熱性 材料由来での人体の発熱性を評価
埋植 生体組織に埋め込んだ時の影響を評価
血液適合性 血液との相互反応を評価

BMFでは、ISO10993の認証を受けた生体適合性樹脂を提供しており、3Dプリンターによる微細加工を医療技術に展開し、医療分野の発展に貢献しています。

【造形例】
BMFの生体適合性樹脂を素材として3Dプリンタ―で製作した、公差:±25μmの心臓血管ステント

]Part of the Week: Cardiovascular Stent

3Dプリンターを活用するプロセスを整備する

医療現場で3Dプリンターを活用するためには、以下の3Dプリンター活用の知識や流れを理解しておくことが重要です。
・プリントのベースとなる3Dデータの用意
・プリンターの操作方法の理解
・プリンターの設置場所の確保 など

プリントのベースとなる3Dデータは、自社で作成する場合と外注によって調達する場合があります。自社で作成する場合には、データ作成のためのリソースも必要です。外注する場合には、医療分野に造形の深いベンダーを選定することが求められます。

プリンターの操作方法が複雑な場合、実際に造形を行う担当者への教育の必要性や、操作が複雑なことで活用できなくなる、といった問題が発生します。特に忙しい医療現場でもスムーズに活用できるように、必要な機能を限定した機種を選ぶといった工夫も求められます。

ランニングコストを考慮する

3Dプリンターを医療分野へ導入する場合、プリンター本体を購入する初期費用に加えて、以下のようなランニングコストも発生します。
・電気代
・材料や素材の購入費
・メンテナンス費用

初期費用だけでなく、ランニングコストとして発生する費用も把握したうえで3Dプリンターを選べば、予算上でもスムーズに運用できる3Dプリンター導入につながるでしょう。

医療分野における実績

3Dプリンターは多くのベンダーからリリースされています。それぞれのベンダーで、医療分野においての活用実績があるところを選ぶのがおすすめです。特に自社が医療分野で3Dプリンターを活用する目的に応じた実績のあるベンダーなら、用途に応じた3Dプリンター選びにつながるでしょう。

3Dプリンターの医療への導入事例

ここでは3Dプリンターの医療分野への導入事例を紹介します。

アカデミア分野事例

画像引用:BMFの3Dプリンターによって製造された50µm のチャネルマイクロ流体多重デバイス

医療分野の実験用精密機器の製作に、BMF Japanの3Dプリンターが活用されています。

カリフォルニア大学バークレー校では、COVID-19の抑制研究で使用できる多重計測マイクロ流体装置の製作を計画していたものの、従来のマイクロ流体装置の製造方法では、設計や製造上の問題が生じていました。そこで超高解像度と厳しい公差を実現できるBMF Japanの3Dプリンター技術に着目。BMFの独自の光造形技術「PµSL」を使用することで、スピーディで低コストな装置の設計や、学内での金型制作などを実現しています。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

またがんの過剰治療の防止や腫瘍の転移、再発防止に有効な音響流体方式装置の製造にもBMF Japanの技術が活用されています。BMF社製マイクロスケール精密3Dプリンターを利用することで、使いやすく、低コストで高いCTC分離効率を備えた音響波マイクロ流体チップの作製が実現しました。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

BMF Japan株式会社の3Dプリンターは、従来のDLP方式から独自の技術PμSL(Projection Micro Stereolithography:面投影微立体光刻)によって、高精細・高精度の造形を実現しています

以下のグラフでは、BMFの3Dプリンタ―においてX-Y精度、Z精度共に高水準であることがわかります。

引用:BMF Japan株式会社

産業分野事例

画像引用:BMFの3Dプリンターによって製造された低侵襲手術器具の非常に小さなパーツ

皮膚がん治療の分野におけるバイオテクノロジーのスタートアップ企業であるIMcoMETでは、革新的ながんの免疫療法「M-Duo Technology」を確立しています。M-Duo Technologyで用いる医療機器の部材には高い精度が求められており、針を固定するキャップにBMF Japan 株式会社の超高精度3Dプリンターが利用されています。

特に医療分野の製品の初期設計・反復検証、小ロット生産において3Dプリンターは活躍します。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

また、超高精度3DプリンターのBMF Japan 株式会社と医療器械の開発や手術ツールの製造などに特化した医療技術企業Sutrue社が提携し、低侵襲手術用自動縫合器を最適化した事例もあります。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

また、がん治療をはじめ、瘢痕組織の緩和や毛髪再生治療なども3Dプリンターの技術による進化が期待されています。詳しくは以下をご覧ください。

産業化事例

画像引用:BMFの3Dプリンターによって製造された新型緑内障ドレナージ装置(サイズ:3.3*1.7*0.25mm)と緑内障患者の眼球に留置した様子

従来の製法では量産化が難しい医療分野の部品を、3Dプリンターによって量産化に成功した事例もあります。

BMF Japan 株式会社の独自の光造形技術「PµSL」を持つ3Dプリンターによるミクロンオーダー加工により、北京同仁病院(中国)とBMFとの提携による経角膜経路一方向性房水ドレナージ装置の共同開発をはじめ、新薬開発やバイオバンク、癌の精密診療、再生医療などに使われる3次構造の培養細胞であるオルガノイドモデルの造形、内視鏡部品や人体に埋め込まれる生体適合材料を使ったステント、複雑な注射針の一体造形などの少数ロッド製作などの事例があります。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

まとめ

医療分野において応用されている3Dプリンター技術や、3Dプリンターを医療分野に取り入れるメリット、医療分野への3Dプリンター導入事例を紹介しました。今後も医療分野へ3Dプリンターの活用が拡大化していくことが期待されます。医療の新技術や治療の面でも、3Dプリンターは貢献できるでしょう。

BMF Japan株式会社では、医療分野をはじめ、マイクロ流体、マイクロメカニクス、MEMS、科学研究など様々な分野で、精度や予算等、重視したいポイントに合わせた製品のご提案を行っております。また、BMFの産業用3DプリンターmicroArchシリーズなら従来の切削加工や金型では難しい複雑で微細な試作を実現できます。

世界中のお客様のニーズに合わせて、最適な3Dプリンティングソリューションをご提案します。ぜひお気軽にご相談ください。

 

関連記事