近年、マイクロロボットに関する研究開発が世界中で進められており、実用化に向けて期待を集めています。マイクロロボットが開発されれば、これまで人間がアプローチできなかったさまざまな場所へマイクロロボットを用いてアプローチすることが可能です。
この記事では、マイクロロボットの特徴や開発される目的、さまざまな用途の中でも医療分野でどのような用途への適用が期待されているかについて紹介します。
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マイクロロボットとは
マイクロロボットは、マイクロボットとよばれることもある超小型のロボットで、ロボット本体が1mm以下の自立移動可能なもの。もしくは、マイクロメートル単位の物体を扱えるロボットを意味します。
単に小型ロボットの総称としてマイクロロボットとよぶ場合もあるため、ロボットのサイズで分類したい場合には、ミニロボット・マイクロロボット・ナノロボットなどと表現するといいでしょう。
マイクロロボットの役割はさまざまです。その小ささを活かして、人の手が届かない場所での作業をマイクロロボットが担うことで、従来はできなかったことの実現が期待されています。また、マイクロロボットはその目的に応じて、金属や樹脂、生体分子などさまざまな材料で作られており、動力も小型モーターなどの動力源だけでなく、外部からの熱や光、磁場などもマイクロロボットの動力源として活用する研究開発が行われています。
近年もマイクロロボットの活用に関する研究は盛んに行われており、次々に新たな技術が開発され、その可能性は広がり続けています。
マイクロロボットの特徴
マイクロロボットは、以下のような特徴を持ちます。
人がアクセスできない環境での作業
マイクロロボットはその小ささから、これまで人がアクセスできなかった箇所での作業が可能です。例えば医療用途では、外科的なアプローチしか選択肢がなかった病気や怪我などの治療をする際に、外科的な処置をせずにマイクロロボットを用いて対処できます。外科的な処置をしないことで患者さんに対するリスクを減らし、治療後の回復期間短縮も期待できるでしょう。
消費エネルギーの抑制が可能
マイクロロボットは本体が小さいため、稼働時に必要な消費エネルギーを抑制できます。電池やモーターなどを搭載していなくても、熱や光などを動力として稼働できるマイクロロボットも開発されています。
また、サイズが小さいことでロボット本体を製造する際に必要な材料も少なくできるため、製造方法を確立してコストを低減できれば、コストパフォーマンスのいいロボットとなるでしょう。
長時間の稼働が難しい
マイクロロボットは、燃料を搭載する余裕があまりないため稼働時間が短くなってしまう場合があります。また、使用時に途中で燃料を供給したくても、外部から燃料を供給することは簡単ではありません。
あらかじめ用途を限定しておき、その用途を完遂するために必要な燃料だけを搭載するような設計が必要です。もしくは、マイクロロボットが滞在する環境で動力を得るような工夫が必要です。例えば、人の対内で稼働するマイクロロボットの場合には、胃酸によって発電する技術開発などが進められています。
医療分野におけるマイクロロボットの想定活用方法
マイクロロボットは製造業や農業、環境のモニタリングなどさまざまな用途で用いられています。特に、危険で人が入り込めない場所での作業やサイズの関係で人が作業を行えない環境での活用が想定されています。
今回は、特に適用が期待されている医療分野での想定活用方法を紹介します。まだ実用化するまでには時間が必要な技術ですが、長寿命化や健康寿命の延伸に大きな効果が期待されます。
体内への医薬品の送達
医薬品の副作用を抑え効果を高めるためには、医薬品を必要な箇所にピンポイントで届ける必要があります。これまでは、医薬品のコーティングや使用する材料の工夫によって消化タイミングをコントロールしてきました。しかし、マイクロロボットで位置やタイミングをコントロールできるようになれば、従来よりも高い精度で体内の特定の場所に医薬品を届けられるようになるでしょう。
例えば、通常のアプローチでは到達が難しい血栓を溶かすことや腫瘍へ直接薬を届けることなどが想定されます。
生体内手術の実現
血管内の治療などは、カテーテルなど医療機器及び医療技術の発達によって、リスクを低減しつつ効果的な治療を行えるようになってきました。しかし、まだ外科的にアプローチをせざるを得ない状況も多くあります。
マイクロロボットを用いて体内から手術を行うことができれば、従来よりも患者への負担を低減し、回復を早めることが期待できます。治療法の選択肢を広げ、リスクを低減できる可能性が高まるでしょう。
生体内手術の実現
マイクロロボットは、熱や光などによって能動的に動かすことが可能です。例えば、人工腎臓は開発が難しく実用化のめどが立っていないため、腎臓に病気を抱える場合には人工透析を行うしか選択肢がありません。マイクロロボットに関する技術開発が進められていき、仮に人工腎臓を実現できれば、透析治療が不要になり人生の選択肢が広がる可能性があります。
また、現在は電気をエネルギーとしている人工心臓も、他の動力によってよりリスクの小さい人工心臓をマイクロロボットで実現できるかもしれません。
3Dプリンタを用いたマイクロロボットの製造
さまざまな材料が用いられるマイクロロボットの製造技術は年々発達しており、新たな材料の開発やMEMSなどの技術によって、新たなマイクロロボットの開発が期待されています。特に近年は、3D造形技術の高度化によって3Dプリンターを使用したマイクロロボットの製造方法に注目が集まっています。
3Dプリンターであれば、造形方式に応じて金属や樹脂、生体親和性の高い材料などさまざまな材料を使用できます。
また、近年は高精度で緻密な加工が可能な3Dプリンターが開発されているため、複雑な形状のマイクロロボットを実現できるでしょう。
BMFの高精度3Dプリンタによるマイクロロボットの開発例
BMFでは、3Dプリンタの実用化が進むなか、PµSL(Projection Micro-Stereolithography)と呼ばれる、独自の光造形技術を開発。PµSL技術は、高い精度が求められるマイクロロボットの研究開発ニーズに応えています。
BMFの超高解像度3Dプリンタによる、マイクロロボットの造形例をご紹介します。
マイクロロボットの製造と組み立て
PµSL技術による、マイクロロボットの製造と組み立て例です。
BMFの超高解像度3Dプリンタで50μm以下の精密部品を造形し、近接で配置。特殊なバブル(気泡)を使い、片方のモジュールを持ち上げ、さらに別のバブルで、もう一方のモジュールを持ち上げ組み合わせます。
らせん形状ロボット
血栓溶解促進に使われるヘリカルローターです。BMFの超高解像度3Dプリンタで、ヘッドにキャビティを持った、全長7.3mm/直径2.15mmのマイクロロボットを一体成型することができます。 ドップラー超音波ガイドを組み合わせることで、血流内での自動ナビゲーションが可能になり、血栓の位置特定や溶栓の促進に有用です。
引用文献:ACS Nano, 16(1): 604-611. (2022)
インターロック機構
イオントロニック圧力センサーに使われる、段階的インターロックの造形例です。
BMFの超高解像度3Dプリンタで、幅290μm、高さ480μmのマイクロドームを成型することができます。広い圧力範囲(最大485kPa)を実現します。
引用文献:ACS Nano, 16(3): 4338-4347.
マイクロロボットとは?まとめ
今回は、マイクロロボットの概要や特徴、医療分野における用途、3Dプリンタを用いた製造方法などについて紹介しました。医療分野において実用化に至っていませんが、今後の技術開発と共に適用が期待されています。
高性能な3Dプリンタであれば、さまざまな材料を用いて複雑な形状を実現できるため、さまざまな機能・役割を担うマイクロロボットを製造できるかもしれません。今後の技術開発に期待が集まるでしょう。